みなさんはこちらの楽器をご存知でしょうか? ジューズ・ハープといって、写真で見る細長い部分を口くわえて、いちばん右のでっぱりの部分をひっぱっ て放すと、口の中がギターホールになる仕組みで、「ビヨーン」という音がします。舌や唇の動かし方によって、さまざまな音の変化が楽しめる優れもの。14 世紀ごろユダヤ人が広めたのが起源とされていますが、アジアにもジューズ・ハープ文化があって、日本では、楽器屋さんのレジの横などでよくお目にかかりま す。イタリアでも古くから伝わっており、名前はスカッチャペンシエーリ(scacciapensieri)。「思考を追い出す者」という意味です。なかな かファンキーなネーミングセンスですが、イタリアの中で、特にこの楽器と関わりが深いのがシチリア地方です。その土地の言葉では、マッランツァーヌ (marranzanu)と呼び、民族舞踏に使われていたとか、はたまたマフィアが連絡用合図に用いたとか言われています。
4曲目『F』では、そのスカッチャペンシエーリが用いられています。奏者はサックスのマルチェッロ・ドゥランティ(Marcello Duranti)。彼はその他さまざまな色モノ楽器を扱いますが、どれも楽曲にすばらしい効果をもたらしています。さて、スカッチャペンシエーリを楽曲に 用いてるという事実を取り立てて言いたいのは、このメインにはならない小さな楽器が、彼らの音楽性を実によく表していると思うからです。彼らは民族音楽に 傾倒しているようで実に無国籍です。『F』もまた、曲調は夕陽が似合うウェスタン風なのに、不思議とシチリアで広まった民族楽器がマッチする。つまり伝統 的なのにハイブリッド。でもそれにはまったく違和感がなく、「アクスティマンティコが確立した音楽」として、自然と耳に入ってきます。
全編アンプラグドで演奏されているこのライブ盤は、そんな彼らの魅力が、もっとも体感できる一枚ではないでしょうか。ざっと聴いただけでもイタリア、 スペインのポップスからロマ音楽、北上して東欧民族音楽、はたまた2曲目『ラガニーツァ』(Raganitza)は、真空チューブのノイズから始まるイン ストナンバーで、どこかインドっぽい神秘的なテイストがします。サウンド面だけから聴いても、いくつもの発見がある名盤。アクスティマンティコ音楽を味わ う上での導入には持って来いで、そして同時にその魅力の極みでもあるのです。
<文:ハムエッグ大輔>
Acustimantico / Disco Numero 4 『ディスク・ナンバー4』 (2005年)
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