『EM、またはエマヌエル・カルネヴァーリ、アメリカへ行く(訳は筆者)』(EM, ovvero Emanuel Carnevali va in America、画像上はそのジャケット)は、数年に渡ってアクスティマンティコが取り組んでいるテーマである詩人エマヌエル・カルネヴァーリについての 音楽劇作品です。彼と縁が深いボローニャ県バッツァーノの財団の協力のもと、2008年CD化された。カルネヴァーリは20世紀初頭にアメリカ移住を体験 した不遇の詩人です。作品はナレーションとサウンドトラック、イタリア人のアメリカ移住やカルネヴァーリのことを歌った楽曲で構成されています。先日その コンサートにも行ってきたのですが、音楽と劇の上演を融合させるという試みが新鮮で、非常に楽しめました。また日本でのCD流通にも協力したいところです。
彼らの作品を通じて知った詩人エマヌエル・カルネヴァーリを紹介しましょう(画像右)。フィレンツェに生まれたカルネヴァーリは、1914年、17歳 にしてアメリカに渡ります。ニユーヨークを拠点に、ブルーカラーの仕事を点々としながら、自らの境遇を元につくった詩を新聞社に送っては無視される日々を 続けます。詩人として一向に芽が出ないという現状に追い討ちをかけるように、脳炎を患い、1922年療養のためイタリアに帰国します。その後も彼の健康が 回復することはなく、幾度となく精神薄弱に陥り、最後はパンを喉につまらせて死んでしまいます。そして近年、親族や、心ある理解者の尽力により、ようやく 彼の作品が手にとって読めるものとなりました。
このカルネヴァーリの例のように、リソルジメント期から20世紀初頭にかけて起こった、南イタリア貧困層のアメリカへの移住は、イタリア現代史の大き なテーマの一つです。そしてそれは、映画『海の上のピアニスト』(La leggenda del pianista sull'oceano、ジュゼッペ・トルナトーレ<Giuseppe Tornatore>、 1999年)や、シチリアの人々を主人公にしたレオナルド・シャーシャ(Leonardo Sciscia)の小説『ワイン色の海(訳は筆者)』(Il mare color del vino、1973年)など、さまざまな芸術分野で取り扱われてきました。アクスティマンティコは、このテーマを音楽で体現し、観る人、聴く人にそれを伝えます。
このカルネヴァーリの例のように、リソルジメント期から20世紀初頭にかけて起こった、南イタリア貧困層のアメリカへの移住は、イタリア現代史の大き なテーマの一つです。そしてそれは、映画『海の上のピアニスト』(La leggenda del pianista sull'oceano、ジュゼッペ・トルナトーレ<Giuseppe Tornatore>、 1999年)や、シチリアの人々を主人公にしたレオナルド・シャーシャ(Leonardo Sciscia)の小説『ワイン色の海(訳は筆者)』(Il mare color del vino、1973年)など、さまざまな芸術分野で取り扱われてきました。アクスティマンティコは、このテーマを音楽で体現し、観る人、聴く人にそれを伝 えます。
そして、この作品のテーマをさらに深めると、現代イタリアにおける移民問題への批判というメッセージが浮かび上がってきます。イタリアは厳しい経済状 況にも関わらず、法律で厳しくそれを制限している他のヨーロッパ諸国と違い、多くの移民を受け入れています。受け入れている、と言うよりはなすがままに任 せていると言ったほうが幾分正しいでしょうか。陸路はもちろんのこと、南はアフリカ大陸から、東はバルカン半島から、イタリア半島をぐるりと取り囲む海を 越え、密入船がやってきます。すると各地で移民、外国人に対する暴行事件が多発するようになりました。2008年の9月、ミラノではビスケットを盗んだ黒 人青年が、店を経営するイタリア人にリンチ・殺害されるという痛ましい事件も起きています。さらに北部同盟(Lega Nord)が掲げる、滞在許可書を申請する外国人に対する課税問題。自国の情勢不安や貧困が原因でイタリアに流れ着いた人々に、ホストであるところのイタ リア人は酷い態度をとりすぎやしてませんか? 歴史を辿れば、イタリア人だってアメリカに移住し、カルネヴァーリのごとく、異国の地を踏み、困難と迫害を 被っていました。サッコ=ヴィンセンティ事件のような理不尽な冤罪事件も起きています。
「私たちに今起こっていることは、何十年も前にイタリア人にも起こっていたのよ。歴史は繰り返すのだから」。ルーマニア出身で、イタリアで活躍する女優アナ・カテリーナ・モラリウ(Ana Caterina Morariu、画像上)は、ルーマニア人差別問題について、そうコメントしました。また、同じくルーマニア出身のセクシー女優、ラモーナ・バデスク (Ramona Badescu、画像下)は、ルーマニア共同体との親交のための特別議員に選ばれ、ローマ市長ジャンニ・アレマンノ(Gianni Alemanno)に抗議の手紙を送りつけるなど、差別・偏見を取り除く運動を活発に行っています。しかしいっぽうで、バデスクの言動は派手すぎる、彼女 は迷走しているに過ぎないという批判の声も上がっています。差別・偏見はよくないし、今イタリアでルーマニア人をはじめとする外国人に対して抱かれている 印象や、イタリア人が彼らに接するときの態度は、絶対に解消しなければならない問題です。しかし、本当に歴史は繰り返すのでしょうか? 100年前のアメ リカと、100年経った現在のイタリアは同じ場所でしょうか? そんな風に感じてしまったのは、ぼくが偶然同時期に見知った陰気なカルネヴァーリの詩と、 ルーマニア人女優たちのメディアを通した言動が、あまりにも対照的だったからかもしれません。それでも、悪化する移民問題のせいで、何かとんでもないこと が起きそうな、ピリピリした空気が流れるローマでは、過去の自分たちを彼らに投影するのではなく、自分たちの過去をよく理解した上で、まったく新たな問題 に立ち向かうというスタンスが正しいように思えます。そんなことを考えながら『エマヌエル・カルネヴァーリ~』を聴き返してみたら、きっと違った音が聞こ えてくることでしょう。
<文:ハムエッグ大輔>
Acustimantico / EM, ovvero Emanuel Carnevali va in America 『EM、またはエマヌエル・カルネヴァーリ、アメリカへ行く(訳はハムエッグ大輔)』 (2008年) |
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1. Sketches of self#1
2. Sulla nave o del viaggio semi-immaginario di molti personaggi, inclusi Emanuel e un Isaac B. Singer sotto mentite spoglie, verso la terra promessa 3. Merica Merica 4. Bianco 5. Sketches of self#2 6. Il dio delle cicche di sigaretta 7. Eterna musica del mondo 8. La sposa nella neve 9. Snug Haven o di Emanuel sulle dune dell'Indiana che scrive a Carl Sandburg,fa l'amore con la sabbia e si sente Dio 10. Merica Merica piano-club 11. Altrove 12. Emanuel Carnevali va in America |