シルヴァーノ・アゴスティさんのお宅にお邪魔してインタビューをした際、『1日3時間しか働かない国』(原題 “Lettere dalla Kirghisia” 『キルギシアからの手紙』 / リンマージネ出版・2005年)について以外にも、さまざまなお話を聞かせてくれました。テープレコーダーが止まっても延々話し続けるアゴスティ氏。今回 は邦訳増刷記念といたしまして、そんな彼の発する言葉の断片をつなぎ合わせつつ、「改めてアゴスティ像が見えてくるかも!」と、こぼれ話をご紹介します。
ハムエッグ大輔 | では、今日はインタビュー本当にありがとうございました…。 |
アゴスティ | ああ、ちょっと待って。この本をきみにあげるよ。 |
アゴスティ、自著“Il semplice oblio”(『ただ忘れること<訳はハムエッグによる>』、リンマージネ出版・2003年)をハムエッグに手渡す | |
アゴスティ | ぼくが世界中を旅してたころの話なんだけど、初めて書店に置かれた本なんだ。その経緯はとてもシンプルでね、旅をしてとてもいい本ができたから、よければ どうぞってフェルトリネッリ(Feltrinelli)で働いている女友達にこの本を送ったのさ。そしたら数日後にはもう返事がきて、すぐ全国のフェルトリネッリで売り出されることが決まった。 |
ハムエッグ大輔 |
なるほど。
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アゴスティ | ああ、じゃあ中表紙にサインするから、ちょっときみのよく目をみせて…。 |
アゴスティ→ハムエッグへのメッセージ: X Dai perché lasci pulsare i desideri e riposare la razionalità ダイへ 感情を脈打たせるために、理性を休ませるんだ |
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アゴスティ | 意味はわかるかい?プルサーレ(pulsare)っていうのは、こう例えば心臓がどくどくってなることだよ。 |
ハムエッグ大輔 | (苦笑いしながら)ありがとうございます…。 |
アゴスティ | ころで、きみ。ぼくに対して敬語を使う(dare del Lei)のやめなよ。 |
ハムエッグ大輔 | え、ああそうですか?わかりました…。そういえば、アポをとるために初めてアゴスティさんに電話したときも、「あなたはシルヴァーノ・アゴスティさんです か?(Lei è Silvano Agosti?)」って聞いたら、「彼女のことは知らないけど、ぼくはシルヴァーノ・アゴスティだよ(Non so di lei, ma io sono Silvano Agosti.)」って答えましたもんね(イタリア語では、「彼女」と「あなた」を共に"レイ<lei>"と言う)。 |
というわけでその後、ハムエッグはアゴスティさんに対し敬語を使わなくなったが、日本語の文面では便宜上敬語にさせていただきます。日本語の敬語、ため口とイタリアのそれらは、感覚的に違ったものなので。 | |
アゴスティ | ああ、そうだったね。誰もぼくに敬称なんて使ってほしくないんだよ。どんな人とでも仲良くしたいしね。一度こんなことがあった。ぼくはこのすぐ近くで映画 館を経営してるんだけど、月曜日は、ぼく自身が受付でお客さんの応対をしている。ある日の月曜日、ひとりの青年が中に入ってきてぼくにこう言ったんだ。 「おれ、アゴスティの友達だからさ、ただで中に入れてよ」。ぼくが落ち着き払って「ああ、それは中に入れなければいけないね。ところでアゴスティとはもう 知り合って長いの?」って言うと。上映室に入りながら、その子は「そりゃもちろん! 頼むぜ、よろしく言っといてくれよな」って言って入っていったんだ。 |
アゴスティ、楽しそうに笑う。
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ハムエッグ大輔 |
あ、その話、知ってますよ。新しい小説でも書いてましたよね。
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『1日に3時間~』に次ぐ、シルヴァーノ・アゴスティの新作『眼に見えないものたちのダンス(訳は筆者)』(Il ballo degli invisibili、2007年、リンマージネ、画像右)。92編の短い話で構成されたこの本は、そのすべてから、それぞれ続きが生まれ出てきそうな、 言わば92編の物語の冒頭部分を収録したような作品になっています。映画館の話以外にも、この作品に書かれている話が、アゴスティさんの口から次々と出てきたの でした。 ※『見えないものたちの踊り』は2011年11月25日 電子書籍・オンデマンド書籍として発売 |
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アゴスティ |
ああ、読んでくれたんだね。
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ハムエッグ大輔 |
はい、やっぱり『1日3時間~』に通じるものがありますね。
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アゴスティ |
そうだね、物語の多くは「ペルケ?」っていう気持ちから生まれていることは確かだよ(「ペルケ」は
“perché”と表記し、「どうして?」、「なぜ?」の意味)。例えば、1日3時間以上働いたら、「ペルケ?」って思わなくちゃいけない。「ペルケ?」、おれは3時間以上働いているんだ? 家に帰って子供たちとおしゃべりしなくちゃ。かわいそうに、「ペルケ?」、子供たちはおれと一緒にいれなくて、学校に行かなくちゃいけないんだ。ペルケ? ペルケ? ペルケ?…。日本語で“Perché
no?”って何て言うの?
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ハムエッグ大輔 |
「なんでだめなの?」ですかね。
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アゴスティ |
おー、「ナンデ」! そうか。ぼくは将来『Perché no?』っていう本を書くことにするよ。そしてその本を日本のみんなと日本の偉い人たちに捧げるよ。『ナンデ?』って。きっとみんなぼくのメッセージがわかってくれると思うけど…。
(おわり) |